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「言いにくいこと」が言える組織へ:ベテランリーダーが実践するコーチング型対話の力

Tags: コーチング, リーダーシップ, 組織文化, コミュニケーション, 対話

経験豊富なリーダーが直面する「言いにくいこと」の壁

長年の経験を積み重ね、組織の中核を担うリーダーの皆様は、様々な成功や困難を乗り越えてこられたことと存じます。豊富な知識と経験は、組織を導く上で大きな強みとなります。一方で、経験が豊富であるゆえに、チームや部下との間に無意識の壁が生まれてしまうことも少なくありません。特に、組織内で「言いにくいこと」、例えばリーダーへの率直な意見、困難な状況報告、あるいは新しいアイデアの発信などが滞ってしまう状況に直面したことはないでしょうか。

なぜ「言いにくいこと」が生まれるのでしょうか。リーダーの圧倒的な経験値や過去の成功体験が、部下にとって「自分の意見など取るに足らない」「言っても理解されないだろう」といった萎縮を生む原因となる場合があります。また、リーダー自身が無意識のうちに結論を急いだり、自分の考えを強く押し出したりすることで、相手が発言する隙を与えない、あるいは発言意欲を削いでしまう可能性も考えられます。

このような状況は、組織全体の風通しを悪くし、建設的な議論やイノベーションを妨げる要因となります。経験豊富なリーダーだからこそ、この「言いにくいこと」の壁を乗り越え、組織内にオープンな対話文化を育むことが、持続的な成長には不可欠となります。

コーチングの視点が拓く新しい対話のカタチ

ここで有効となるのが、コーチングの視点を取り入れた対話です。従来のリーダーシップにおいては、「教える」「指示する」「解決策を与える」といったアプローチが中心となることが多かったかもしれません。もちろん、これらはリーダーとして必要な機能です。しかし、「言いにくいこと」を引き出し、相手の自律的な思考を促すためには、異なるアプローチが必要となります。

コーチング型対話では、一方的に話すのではなく、「聴く」ことに重心を置きます。そして、相手の中に既にある答えや可能性を引き出すための「問いかけ」を重視します。これは、リーダーが「私は全てを知っている」というスタンスから離れ、「あなたは何を知っているか」「あなたはどう考えているか」に関心を向けるシフトと言えます。

経験豊富なリーダーの皆様にとって、これはある意味挑戦かもしれません。長年培ってきた「解決能力」を一時的に脇に置き、相手が自分で考え、気づきを得るプロセスを辛抱強く待つ必要があるからです。しかし、このアプローチこそが、部下が安心して本音を語り、自らの頭で考え、オーナーシップを持って行動するための土壌を耕すことにつながります。

実践例:困難な状況報告に対するコーチング的アプローチ

具体的な例を考えてみましょう。プロジェクトの遅延という困難な状況報告を受けた際、従来のリーダーであれば原因追及や対策の指示にすぐに移行するかもしれません。これも必要な対応ですが、もし部下が遅延の「言いにくい」本質的な原因(例:部門間の連携不備、リソース不足の隠蔽など)を抱えている場合、表面的な解決策では根本的な問題は解消されません。

ここでコーチング的な対話を取り入れてみます。

リーダー:「プロジェクトの状況について報告ありがとう。遅延が発生しているとのことですが、率直に、今感じていることや、何が一番のボトルネックになっていると考えていますか?」

部下:「(少し躊躇しながら)はい、実は… 部門間の情報共有がうまくいっておらず、手戻りが発生しています。」

リーダー:「なるほど。情報共有がボトルネックになっているのですね。具体的にどのような点でうまくいっていないと感じていますか? そして、それを解消するために、あなたが今できそうなこと、あるいは必要だと感じているサポートは何でしょうか?」

このように、「なぜ遅れているのか」という詰問ではなく、「どう感じているか」「どう考えているか」といった内面に寄り添う問いかけから始めます。そして、問題の特定だけでなく、解決に向けた相手自身の考えやアイデアを引き出します。

この対話を通じて、部下は安心して状況の本質を報告できるようになり、リーダーは表面的な情報だけでなく、根源的な課題を把握できます。さらに、部下自身が解決策を考えることで、問題解決への主体性と責任感が育まれます。

コーチング型対話が組織文化にもたらす変革

一見、一対一の対話に過ぎないコーチング的アプローチですが、これが組織全体に広がると、大きな変化を生み出します。リーダーがオープンな姿勢で部下の話に耳を傾け、敬意を持って問いかける姿は、チーム内に安心感をもたらします。心理的安全性が高まることで、メンバーは失敗を恐れずに新しいアイデアを発言したり、率直な意見交換をしたりできるようになります。

このような環境では、「言いにくいこと」が風通しよく共有され、課題が早期に発見・解決されるようになります。また、多様な視点が尊重されることで、より創造的で質の高い意思決定が可能となります。

経験豊富なリーダーの皆様が、ご自身の豊富な経験を土台としつつ、コーチングの「聴く力」と「問いかける力」を意識的に活用されること。それは、単に部下を育成するだけでなく、組織の対話の質を高め、よりしなやかで強い組織文化を築く強力な一歩となるはずです。

経験を活かし、新たな可能性を拓く

長年の経験を持つリーダーだからこそ、相手の言葉の裏にある文脈や、未然に防ぐべきリスクに気づくことができます。コーチングのスキルは、この豊かな経験を、相手の成長と組織の発展のために、より効果的に活かすための「触媒」となるでしょう。

自身の「知っている」ことを伝えるだけでなく、相手の中にある「知らない可能性」を引き出す対話を通じて、経験豊富なリーダーの皆様は、ご自身のリーダーシップの幅をさらに広げ、組織文化に変革をもたらす中心的な存在となり得ます。ぜひ、日々のコミュニケーションの中で、意識的にコーチングの視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。