経験豊富なリーダーが挑む『未来への伴走』:未知の課題にコーチングでどう向き合うか
経験は力、されど壁にもなり得る:未知の課題への向き合い方
長年にわたり組織を率い、多くの成功や困難を乗り越えてこられた経験豊富なリーダーの皆様にとって、積み重ねてきた知識や経験は何よりの強みでしょう。過去のデータやパターンから未来を予測し、最適な解を導き出す力は、確固たる自信の源泉となります。
しかし、現代は変化が早く、過去の成功法則が必ずしも通用しない「未知の課題」に直面することも少なくありません。特に、新しいテクノロジーの登場、市場環境の激変、多様性の拡大など、自身の経験範囲を超える領域での課題解決や、メンバーの成長を支援する場面では、これまでの「教える」「導く」というアプローチだけでは立ち行かなくなることがあります。
このような状況で、経験豊富なリーダーシップをいかに活かしながら、メンバーやクライアントの「未知への挑戦」を効果的に支援できるのか。その鍵となるのが、コーチングの視点を取り入れた「未来への伴走」です。
「答えを知っている」経験が、コーチングにおける「壁」になる時
経験豊富なリーダーは、多くの問題に対して解決策や成功への道筋をすでに「知っている」ことが多いです。これは圧倒的な強みである一方、コーチングにおいては時に壁となり得ます。
- 「つい、教えてしまう」: 相手が課題を語り始めた途端、「ああ、それはね…」と自身の経験に基づいた解決策を提示してしまいがちです。これは効率的に見えますが、相手自身の思考や発見の機会を奪ってしまいます。
- 経験による「先入観」: 過去の類似ケースの成功体験が、目の前の相手の固有の状況に対する先入観を生み、フラットな姿勢での傾聴や、既成概念に捉われない問いかけを妨げることがあります。
- 「正解は一つ」という思考: 長年の経験から培われた「正解」への確信が強いほど、多様な可能性や相手の内側にある独自の視点を受け入れにくくなることがあります。
未知の課題に取り組む相手にとって必要なのは、リーダーが持つ「過去の答え」そのものよりも、その課題に対する「自分なりの答え」を見つけ出すプロセスを支援されることです。ここで、経験豊富なリーダーは「教える人」から「伴走する人」へとスタンスを変えることが求められます。
未知の課題に「伴走」するコーチング的アプローチ
では、経験豊富なリーダーが未知の課題に挑む相手に、コーチングでどのように伴走できるでしょうか。自身の経験を活かしつつも、「教える」のではなく「引き出す」ための具体的なアプローチをいくつかご紹介します。
1. 経験を『メタファー』として語る:直接的な指示から抽象的な示唆へ
自身の経験を語ることは、共感を生み、信頼関係を築く上で非常に有効です。しかし、それを直接的な「こうすれば良い」という指示にするのではなく、「あの時、私はこんな困難にぶつかり、〇〇のように考えて乗り越えました」というように、具体的な状況を離れた『メタファー(比喩)』や『ストーリー』として共有するのです。
これにより、相手はリーダーの経験から「考え方」「乗り越え方」といったエッセンスを抽出し、自身の未知の状況に照らし合わせて応用する余地が生まれます。答えを押し付けるのではなく、思考のヒントを提供するイメージです。
2. 「もし私なら…」の後に『問い』を添える:経験知を内省のトリガーに
どうしても自身の経験から具体的なアプローチを伝えたくなる場合でも、それを結論にするのではなく、問いかけに繋げることができます。「もし私なら、この状況ではまず〇〇に注目するかもしれません。Aさんは、この点についてどのように考えられますか?」のように、「私の経験ではこうだったが、あなたはどう思うか?」と問うことで、相手はリーダーの経験知を参考にしつつも、自身の頭で考え、自身の答えを見つけるプロセスに入ることができます。
3. 自身の『アンラーニング』を共有する:完璧ではない姿勢が探求を促す
経験豊富なリーダーでも、未知の課題に対しては完璧な答えを知らない場合があります。その「完璧ではない」姿勢を正直に共有することは、相手にとって大きな安心感と、共に探求する意欲を与えます。「実は私も、この分野はまだ十分に理解できていない部分があります。ご一緒に、何が最適かを探っていきましょう」といったスタンスは、フラットな関係性を築き、オープンな対話を促進します。自身のアンラーニングのプロセスを語ることも、相手にとって学びとなります。
4. 経験を『問いの源泉』とする:過去から未来への橋渡し
自身の豊富な経験から得られた「本質」や「原則」は、パワフルな問いを生み出す源泉となります。例えば、「これまでの成功の裏には、どのような共通のパターンがあったか?」といった過去への問いから、「そのパターンは、今の未知の状況にどう応用できるか?」といった未来への問いに繋げる。あるいは、「最も困難だった挑戦から何を学んだか?それはこの新しい挑戦にどう活かせるか?」など、自身の経験を内省し、そこから相手の未来を拓く問いを生み出すのです。
共に未来を描く羅針盤としての経験
経験豊富なリーダーの持つ知見は、決して過去のものではありません。それを『未来への羅針盤』として、未知の航海に出る相手に手渡すのがコーチング的な伴走です。
直接的な海図を与えるのではなく、羅針盤の使い方を共に考え、波や風をどう読むかについて共に探求する。そして、相手自身がその羅針盤を手に、自身の航路を見つけ出すプロセスを信頼し、支援する。
自身の豊富な経験を「教える武器」としてではなく、「共に探求するための智慧」として活用することで、経験豊富なリーダーは、変化の時代においても、メンバーやクライアントの可能性を最大限に引き出し、共に未知の未来を切り拓いていく真のリーダーシップを発揮できるのではないでしょうか。
皆様は、ご自身の経験を、未知の課題に挑む方への「伴走」にどのように活かしていきたいとお考えでしょうか。ぜひ、このコミュニティで共に語り合い、新たな視点を見出していただけたら幸いです。