世代・価値観を超えて響く:多様なチームを率いるコーチング実践
経験豊富なリーダーが直面する「多様性」という課題
長年のキャリアを通じて、組織やチームを率いる経験を積み重ねてこられた皆様の中には、近年のチームの多様化に、これまでのアプローチだけでは対応しきれない、と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。世代、価値観、働き方、バックグラウンドなど、かつてないほど多様になったチームメンバーに対して、自身の豊富な経験や知識をどのように伝え、彼らの自律的な成長とチーム全体の成果につなげていくのか。これは、経験豊富なリーダーにとって新たな、そして重要な課題と言えます。
画一的な指示や、自身の成功体験の押し付けでは、多様なメンバーの心には響きにくくなっています。むしろ、個々の強みや異なる視点が活かされず、チームのポテンシャルを十分に引き出せない可能性もあります。ここで、コーチングのアプローチが非常に有効な力を発揮します。
多様なチームにおけるコーチングの役割
多様なチームを率いる上で、リーダーは単に目標を指示する存在ではなく、チームメンバー一人ひとりが持つ異なるエネルギーや可能性を理解し、それらを結びつけ、共通の目的に向かって推進していく「触媒」のような存在になることが求められます。コーチングは、まさにこの「触媒」となるための強力なツールです。
コーチングは、メンバーに対して答えを与えるのではなく、問いかけを通じて本人の内省や気づきを促し、自らの力で解決策を見つけ出す支援を行います。多様なチームにおいては、メンバーそれぞれが異なる視点や課題認識を持っています。コーチングのアプローチを用いることで、これらの多様な視点から生まれる意見を尊重し、対話を通じて統合していくことが可能になります。
多様なチームを率いるための具体的なコーチング実践
では、具体的にどのようにコーチングをチームマネジメントに活かせるのでしょうか。いくつかの実践方法をご紹介します。
1. 個々の「価値観」と「強み」を理解する対話
多様なチームでは、メンバーのモチベーションの源泉や働く上での価値観が大きく異なります。経験豊富なリーダーの視点からすると、「なぜこれが分からないのか」「昔はこうだった」と感じる場面があるかもしれません。しかし、そこで一方的に「正解」を伝えるのではなく、コーチングのスキルであるアクティブリスニング(傾聴)とパワフルクエスチョン(問いかけ)を意識的に使ってみましょう。
例えば、ある若手メンバーが「成長実感がない」と悩んでいるとします。経験豊富なリーダーであれば、自身の経験から具体的なアドバイスをすぐに伝えたくなるかもしれません。しかし、一歩立ち止まり、「成長」とはそのメンバーにとってどのような状態を指すのか、過去にどのような時に成長を感じたのか、これからどのような経験を積みたいのか、といった問いを投げかけてみてください。その対話を通じて、リーダー自身もメンバーの価値観や期待を深く理解でき、メンバー自身も自身の内面に気づきを得ることができます。
2. 異なる意見を統合するファシリテーション
チーム内で意見の対立やコミュニケーションの壁が生じることは、多様であればあるほど起こり得ます。リーダーは仲裁に入るだけでなく、コーチングの視点から対話を促進する役割を担います。
例えば、異なる働き方(リモートと出社)を巡って意見が分かれている場合。「どちらが正しいか」ではなく、「それぞれの働き方で重視していることは何か」「それぞれのやり方で実現したいチームの状態は何か」といった、背景にある意図や目的に焦点を当てる問いを投げかけます。そして、それぞれの意見がチーム全体の目的達成にどう貢献できるのか、共通点や歩み寄れる点はないかを探る対話を促します。これにより、単なる意見の衝突で終わらせず、多様な視点からより良い方法を共に見つけ出すプロセスを生み出せます。
3. 経験を「引き出し」として活用する
これまでの豊富な経験は、多様なチームを率いる上で非常に強力な財産です。しかし、それを一方的に「教える」のではなく、メンバーの成長を促すための「引き出し」として活用することが重要です。
メンバーが課題に直面しているとき、すぐに解決策を与えるのではなく、「あなたがこの状況で大切にしたいことは何ですか?」「過去に似たような状況で、何か参考になる経験はありますか?」「もし一つだけ試せるとしたら、何をしてみますか?」といった問いを投げかけます。メンバーが考え抜き、行動を起こした後で、「私の経験では、こういう視点も参考になるかもしれません」と、自身の経験を一つの選択肢や新たな視点として提供します。これにより、メンバーはリーダーの経験から学びつつも、自身の頭で考え、判断する力が養われます。
このアプローチがもたらすもの
多様なチームに対してコーチングのアプローチを実践することは、リーダー自身にとっても大きな学びと成長の機会となります。これまでの「指示・管理型」のリーダーシップから、「支援・育成型」へとスタイルをアップデートすることで、自身の持つ経験知が、より多くのメンバーの可能性を引き出すために再活用されるのを実感できるでしょう。
また、多様なメンバーとの対話を通じて、自身の固定観念に気づいたり、これまでは思いつかなかったような新しいアイデアや視点を得たりすることもあります。チームメンバーが自律的に考え、行動し、成果を上げた時の喜びは、リーダー自身の成長実感にもつながります。
まとめ:多様性を力に変えるリーダーシップへ
多様化は現代社会における避けることのできない流れです。経験豊富なリーダーだからこそできる、自身の深い経験とコーチングのアプローチを融合させたリーダーシップは、多様なチームのポテンシャルを最大限に引き出し、組織全体の力に変える鍵となります。
自身の経験を、次世代や異なる価値観を持つメンバーの成長を支援するための「引き出し」として活用し、対話を通じて共通の理解と目的意識を醸成していくこと。このコーチング的アプローチこそが、多様な時代におけるリーダーシップのあるべき姿と言えるでしょう。ぜひ、日々のチームとの関わりの中で、意識的にコーチングのスキルを取り入れてみてください。